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更新日:2019.08.21

生きづらい原因は脳の扁桃体?

 

「扁桃体」

 
「生きづらい」と感じている人は、強い恐怖といった不愉快な感情に襲われ、その「原因」に思い悩んでいます。その不愉快な感情の発生に大きくかかわっていると考えられているのが、脳にある「扁桃体」です。そこでこのコラムでは「生きづらい原因」と「扁桃体」との関係について焦点を当て、扁桃体がどのように感情にかかわってくるのか、そして敏感な扁桃体を抑える方法をとおして、生きづらいという問題にどのように対処していけばいいのかを具体的に解説していきます。

そもそも扁桃体ってなに?

 

┃扁桃体は「危険」の判定員

 
扁桃体とは、脳の内側に隠れているとても小さな部位です。
 
左右両側に一つずつあり、記憶と深い関連があることで有名な「海馬」にも接しています。
 
その形がアーモンド(扁桃)に似ていることから、その名前が付けられたと言われており、英語では「Amygdala(アミグダラ)」と呼ばれています。
 
扁桃体の場所

 
上の画像は、脳を左横からみた図。
 
向かって左側に顔があるということになります。
 
そして赤い丸が、扁桃体です。
 
扁桃体がある場所は、大脳辺縁系と呼ばれるエリアで、そこは人間の感情や意欲、自律神経の活動に大きくかかわると考えられているエリア。
 
そのなかでも扁桃体は、「危険」を察知する役割をもっていると言われています
 
たとえば、他人が怖がっていたり怒っているのを見るだけでも、扁桃体は反応するのです。
 

<引用>
Functional imaging studies have shown that the amygdala is activated more strongly in the presence of fearful and angry faces than of happy ones 

<訳>
機能的画像研究では、扁桃体は幸せな表情を見るよりも、恐がっている表情や怒っている表情に対してより強く反応した

※訳は引用者による

 
(引用元:Joseph E. LeDoux「Emotion Circuits in the Brain」『Annual Review of Neuroscience(2000)Vol.23』)
 
人がなにかを怖がっているということは、自分にもなにか危険が迫っているかもしれない状況です。
 
また、人が怒っている状況というのは、その怒りに巻き込まれる可能性がありますし、その眼差しがこちらに向けられていれば、それはそのまま自分への攻撃となり、危険そのものになります。
 
このように、人の表情というとても些細な刺激にさえ、扁桃体は反応するのです。
 
つまり扁桃体は、危機的な状況をいち早く察知して私たちに知らせてくれる「危険」の判定員だと言えるでしょう。
 
目の前で起きていることは、自分にとって危なくないのか?
 
これは食べられるものなのか?
 
この音が聞こえたということは、なにかが迫ってきているのではないか?
 
この臭いは、自分にとって有害ではないだろうか?
 
この感覚は、触っても大丈夫なものだろうか?
 
扁桃体はそれらを瞬間的に判断する。
 
そのために、五感のすべてから扁桃体に情報が届くようになっています。
 
そして危険だと判断した場合に、私たちに「恐怖や怒り」という感情を湧き起こします。
 
恐怖や怒りという感情を使って、私たちに「今、危険な状態だよ!」と教えてくれているわけです。
 
言うなれば、恐怖や怒りは、扁桃体からの「警告アラーム」だと言えるでしょう。
 
さらに、恐怖を感じたのであれば、逃げ出したり、すくんで動けなくなるでしょう。
 
また、怒りを感じたのであれば闘おうとするとするでしょう。
 
危機的な状況において瞬時に起こる、そのようないわゆる「闘争、逃走、すくみ反応」と呼ばれる行動。
 
いずれも、生きづらいと感じている人を切実に悩ませている行動です。
 
それらの行動を起こすことにも、扁桃体がかかわっていると考えられています。
 
目の前の状況を「危険」かどうか判定し、さらにそれに必要な行動を瞬時に取らせること。
 
それが扁桃体の大きな役割の一つなのです。
 

┃意識よりも早く判断する

 
では、扁桃体はどのくらいの早さで状況を察知しているのでしょうか?
 
「危険」の判定をしてくれるわけですから、かなり素早くなければいけませんよね。
 
そのスピードは100ms(0.1秒)だと言われています。
 
ということは、当然のことながら私たちが意識するよりも早く、扁桃体が判断しているということになります。
 
じっさいに扁桃体は、判断した情報を0.2秒~0.3秒の段階で脳の視覚野に出力して、目に映ったものが意識にあがるのをうながす役割も果たしているのです。
 
あなたもご経験があるのではないでしょうか?
 
夏の台所で電気をつけたら、体がビクっと反応して「うわ、ゴキ〇リ!」と悲鳴をあげる。
 
そのあと、壁の上の黒い物体がしっかり目に映って、恐るおそるよく見てみると、ただの大きな油汚れだった・・・。
 
また、道を歩いていると、バッと顔を背けて手で頭を抱える動作をとった。
 
なにかが飛んできてぶつかるような感覚があったけど、なにごともなく一瞬でとおり過ぎていった。
 
手のすき間から見てみると、上空を鳩が一羽飛んでいて、その影が自分をとおり過ぎていっただけだった・・・。
 
これらはまさに、危険の判定員である扁桃体のなせるわざだと言えるでしょう。
 
対象物が意識にあがってくる前に、自動で反応し行動してしまうのです。
 
生きづらいと感じている方であれば、その反応が強いと感じている方が多いかもしれません。
 
ただ、自動で反応されちゃうと困るなぁと感じるときもありますよね。
 
油よごれに悲鳴をあげているところや、なにもないのに道端で頭を抱えているところを見られたら、やっぱり恥ずかしいものです。
 
でも、これらの例は無事に済んだからよかったのですが、日常生活には、もっと本当に危険な状況がたくさんありますよね。
 
その一つひとつが意識にあがるのをまっていたら、とてもではありませんが、その危険を回避することができません。
 
また、意識にあがったあとによく考えて「闘うか、逃げるか、すくむか」と判断していたら、まったく間に合わないでしょう。
 
そこで扁桃体は、意識にあがるまえに状況を察知して、危険だと判断したらすぐに行動を取らせてくれるのです。
 
参考文献
佐藤弥「扁桃体と視覚」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
 

┃扁桃体の敏感度はいつ頃決まるの?

 
扁桃体には敏感度があると考えられています。
 
肌が敏感な人がいるように、扁桃体が敏感な人がいるわけです。
 
当然と言えば当然ですよね。
 
誰もがまったく同じようにしか恐怖や怒りを感じないのだと言われたら、ちょっと首をかしげてしまいますよね。
 
では、その敏感度はどのように決まってくるのでしょうか?
 
じつは扁桃体には、くり返し活性してしまうと些細な刺激でも反応してしまうようになる傾向があります。
 
これを「キンドリング現象」と言います。
 
つまり、キンドリング現象が起きると、扁桃体が敏感になって、少しの刺激でもかんたんに恐怖や怒りを感じやすくなってしまうということです。
 
基本的には、その敏感度は幼少の頃の体験によって決まってしまうと考えられています。
 
そのような体験で、もっともわかりやすい例が「児童虐待」でしょう。
 
児童虐待は、被害を受けている子供本人にとって、まさに危機的な状況以外のなにものでもありません。
 
幼い子供にはまったく逃げ場がない。
 
それゆえ命にかかわる危険な状態なのです。
 
そのような異常な危機状態に、毎日くり返しくり返し襲われていれば、キンドリング現象がかんたんに起きてしまうことは想像できます。
 
虐待は、扁桃体を過敏にする仕組みそのものといって過言ではないでしょう。
 

<引用>
深刻な虐待を経験した人では恐怖をつかさどる扁桃体が過活動になる

 
(引用元:友田明美「被虐待者の脳科学研究」『児童青年精神医学とその近接領域 57巻(2016)5号』日本児童青年精神医学会)
 
虐待というと、すぐに思い浮かぶのが暴力的な行為です。
 
しかし、子供にとって、暴力以外にもあらゆる行為が虐待として深いダメージとなります。
 
育児放棄や無視、暴言などもそこに含まれます。
 
そのような暴力以外の虐待も、扁桃体に影響を及ぼしてしまうのです。
 
また、児童虐待を受けPTSDを罹患した患者17名に対しておこなった研究では、扁桃体のサイズが13%小さくなることが示されました。
 
児童虐待によって、扁桃体はダイレクトに影響を受けてしまうと考えられているのです。
 
さらに、その虐待を受けていた時期や期間によっても、扁桃体の敏感度は影響を受けてしまいます。
 

<引用>
This finding suggests that amygdala activation is to some degree calibrated in line with length of exposure to environmental stress, with exposure during the first 2 years of life appearing particularly influential, consistent with related findings regarding amygdala structure.

<訳>
この発見は、扁桃体の活性化が環境ストレスにさらされた長さに沿ってある程度影響を受けていることを示唆しており、人生の最初の2年間はとくに影響が強く、扁桃体の構造についての関連調査の結果と一致している

※訳は引用者

 
(引用元:Eamon J. McCrory「Amygdala activation in maltreated children during pre-attentive emotional processing」『The British Journal of Psychiatry(2013)202』Cambridge University Press)
 
このような心身への不条理な暴力によって、子供の扁桃体は敏感になっていってしまうのです。
 
扁桃体が敏感になれば、当然、恐怖を感じやすくなり、怒りを感じやすいということになります。
 
些細なことで逃げたくなり、身のすくむ思いがしてしまう。
 
また、些細なことで怒りに火がつき、それを鎮めるだけでも、ものすごい労力を使うことになる。
 
そのような苦しい状況が毎日毎日つづいていく。
 
それはとても生きづらい状態と言えるでしょう。
 
にもかかわらず、周囲の人から容赦なく他の人たちと同じようにふるまうことを求められます。
 
そのために、さらに生きづらい状態が加速していってしまう・・・。
 
扁桃体が敏感な人には、このようにして、どうしても生きづらさがまとわりついてしまうのです。
 
だからと言って現段階で「生きづらい原因は扁桃体」と断定してしまうのは、まだ早計と言えるでしょう。
 
その答えを出すことはもう少しだけ先にして、次は、その敏感な扁桃体を抑える方法について見ていきたいと思います。
 
参考文献
熊崎博一他「児童虐待における扁桃体を含む脳の変化」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
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