TOP | コラム一覧 | 生きづらい原因は脳の扁桃体?


更新日:2020.1.20

生きづらい原因は脳の扁桃体?

 

「扁桃体」

 
「生きづらい」と感じている人は、強い恐怖といった不愉快な感情に襲われ、その「原因」に思い悩んでいます。その「原因」に大きくかかわっていると考えられているのが、脳にある「扁桃体」です。そこでこのコラムでは「生きづらい原因」と「扁桃体」との関係に焦点を当て、扁桃体がどのように私たちの感情にかかわっているのかをご紹介します。さらに、敏感な扁桃体を抑える方法をとおして、「生きづらい原因」にどのように対処していけばいいのかを具体的に解説していきます。

なぜ扁桃体が「生きづらい原因」だと言えるのか?

 

┃扁桃体は「危険」の判定員

 
「生きづらい原因」にかかわっていると考えられる扁桃体。
 
そもそもこの扁桃体とは、いったいなんなのでしょうか?
 
扁桃体とは、脳の内側に隠れているとても小さな部位です。
 
左右両側に一つずつあり、記憶と深い関連があることで有名な「海馬」にも接しています。
 
その形がアーモンド(扁桃)に似ていることから、その名前が付けられたと言われており、英語では「Amygdala(アミグダラ)」と呼ばれています。
 
扁桃体の場所

 
上の画像は、脳を左横からみたものです。
 
向かって左側に顔があるということになります。
 
そして赤い丸が、扁桃体です。
 
扁桃体がある場所は、大脳辺縁系と呼ばれるエリアで、そこは人間の感情や意欲、自律神経の活動に大きくかかわると考えられているエリア。
 
そのなかでも扁桃体は、「危険」を察知する役割をもっていると言われています
 
たとえば、他人の表情という小さな刺激にさえ、扁桃体は反応してしまうのです。
 

<引用>
Functional imaging studies have shown that the amygdala is activated more strongly in the presence of fearful and angry faces than of happy ones 

<訳>
機能的画像研究では、扁桃体は幸せな表情を見るよりも、恐がっている表情や怒っている表情に対してより強く反応した

※訳は引用者による

 
(引用元:Joseph E. LeDoux「Emotion Circuits in the Brain」『Annual Review of Neuroscience(2000)Vol.23』)
 
このように、他人が「恐がっている顔」や「怒っている顔」を見ると、扁桃体はより強く反応します。
 
他人がなにかを怖がっているということは、自分にもなにか危険が迫っているかもしれない状況です。
 
また、他人が怒っている状況というのは、その怒りに巻き込まれる可能性がありますし、その眼差しがこちらに向けられていれば、それはそのまま自分への攻撃となり、危険そのものになります。
 
つまり扁桃体は、危機的な状況をいち早く察知して私たちに知らせてくれる「危険」の判定員だと言えるでしょう。
 
目の前で起きていることは、自分にとって危なくないのか?
 
これは食べられるものなのか?
 
この音が聞こえたということは、なにかが迫ってきているのではないか?
 
この臭いは、自分にとって有害ではないだろうか?
 
この感覚は、触っても大丈夫なものだろうか?
 
扁桃体はそれらを瞬間的に判断する。
 
そのために、五感のすべてから扁桃体に情報が届くようになっています。
 
そして危険だと判断した場合に、私たちに「恐怖や怒り」という感情を湧き起こします。
 
恐怖や怒りという感情を使って、私たちに「今、危険な状態だよ!」と教えてくれているわけです。
 
言うなれば、恐怖や怒りは、扁桃体からの「警告アラーム」だと言えるでしょう。
 
さらに、恐怖を感じたのであれば、逃げ出したり、すくんで動けなくなるでしょう。
 
また、怒りを感じたのであれば闘おうとするとするでしょう。
 
危機的な状況において瞬時に起こる、そのような「闘う、逃げる、すくむ」という行動。
 
いずれも、生きづらいと感じている人を切実に悩ませている行動です。
 
それらの行動を起こすことにも、扁桃体がかかわっていると考えられています。
 
つまり、目の前の状況を「危険」かどうか判定し、さらに「闘う、逃げる、すくむ」という行動を瞬時にとらせること
 
それが扁桃体の大きな役割だということになるでしょう。
 
その役割ゆえに、扁桃体が「生きづらい原因」にかかわっていると考えられるのです。
 

┃意識よりも早く判断する

 
では、扁桃体はどのくらいの早さで状況を察知しているのでしょうか?
 
「危険」の判定をしてくれるわけですから、かなり素早くなければいけませんよね。
 
そのスピードは100ms(0.1秒)だと言われています。
 
ということは、当然のことながら私たちが意識するよりも早く、扁桃体が判断しているということになります。
 
じっさいに扁桃体は、判断した情報を0.2秒~0.3秒の段階で脳の視覚野に出力して、目に映ったものが意識にあがるのをうながす役割も果たしているのです。
 
あなたもご経験があるのではないでしょうか?
 
夏の台所で電気をつけたら、体がビクっと反応して「うわ、ゴキ〇リ!」と悲鳴をあげる。
 
そのあと、壁の上の黒い物体がしっかり目に映って、恐るおそるよく見てみると、ただの大きな油汚れだった・・・。
 
また、道を歩いていると、バッと顔を背けて手で頭を抱える動作をとった。
 
なにかが飛んできてぶつかるような感覚があったけど、なにごともなく一瞬でとおり過ぎていった。
 
手のすき間から見てみると、上空を鳩が一羽飛んでいて、その影が自分をとおり過ぎていっただけだった・・・。
 
これらはまさに、危険の判定員である扁桃体のなせるわざだと言えるでしょう。
 
対象物が意識にあがってくる前に、自動で反応し行動してしまうのです。
 
生きづらいと感じている方であれば、その反応が強いと自覚している方が多いかもしれません。
 
そして、自動で反応されちゃうと困るなぁと感じるときもありますよね。
 
油よごれに悲鳴をあげているところや、なにもないのに道端で頭を抱えているところを見られたら、やっぱり恥ずかしいものです。
 
でも、これらの例は無事に済んだからよかったのですが、日常生活には、もっと本当に危険な状況がたくさんありますよね。
 
その一つひとつが意識にあがるのをまっていたら、とてもではありませんが、その危険を回避することができません。
 
また、意識にあがったあとによく考えて「闘うか、逃げるか、すくむか」と判断していたら、まったく間に合わないでしょう。
 
そこで扁桃体は、意識にあがるまえに状況を察知して、危険だと判断したらすぐに行動を取らせてくれるのです。
 
参考文献
佐藤弥「扁桃体と視覚」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
 

┃扁桃体の敏感度はいつ頃決まるの?

 
怯える子供の写真

 
扁桃体には敏感度があると考えられています。
 
肌が敏感な人がいるように、扁桃体が敏感な人がいるわけです。
 
当然と言えば当然ですよね。
 
誰もがまったく同じようにしか恐怖や怒りを感じないのだと言われたら、ちょっと首をかしげてしまいますよね。
 
では、その敏感度はどのように決まってくるのでしょうか?
 
じつは扁桃体には、くり返し活性してしまうとささいな刺激でも反応してしまうようになる傾向があります。
 
これを「キンドリング現象」と言います。
 
つまり、キンドリング現象が起きると、扁桃体が敏感になって、少しの刺激でもかんたんに恐怖や怒りを感じやすくなってしまうということです。
 
基本的には、その敏感度は幼少の頃の体験によって決まってしまうと考えられています。
 
そのような体験で、もっともわかりやすい例が「児童虐待」でしょう。
 
児童虐待は、被害を受けている子供本人にとって、まさに危機的な状況以外のなにものでもありません。
 
幼い子供にはまったく逃げ場がない。
 
それゆえ命にかかわる危険な状態なのです。
 
そのような異常な危機状態に、毎日くり返しくり返し襲われていれば、キンドリング現象がかんたんに起きてしまうことは想像できます。
 
虐待は、扁桃体を過敏にする仕組みそのものといって過言ではないでしょう。
 

<引用>
深刻な虐待を経験した人では恐怖をつかさどる扁桃体が過活動になる

 
(引用元:友田明美「被虐待者の脳科学研究」『児童青年精神医学とその近接領域 57巻(2016)5号』日本児童青年精神医学会)
 
虐待というと、すぐに思い浮かぶのが暴力的な行為です。
 
しかし、子供にとって、暴力以外にもあらゆる行為が虐待として深いダメージとなります。
 
育児放棄や無視、暴言などもそこに含まれます。
 
そのような暴力以外の虐待も、扁桃体に影響を及ぼしてしまうのです。
 
また、児童虐待を受けPTSDを罹患した患者17名に対しておこなった研究では、扁桃体のサイズが13%小さくなることが示されました。
 
児童虐待によって、扁桃体はダイレクトに影響を受けてしまうと考えられているのです。
 
さらに、その虐待を受けていた時期や期間によっても、扁桃体の敏感度は影響を受けてしまいます。
 

<引用>
This finding suggests that amygdala activation is to some degree calibrated in line with length of exposure to environmental stress, with exposure during the first 2 years of life appearing particularly influential, consistent with related findings regarding amygdala structure.

<訳>
この発見は、扁桃体の活性化が環境ストレスにさらされた長さに沿ってある程度影響を受けていることを示唆しており、人生の最初の2年間はとくに影響が強く、扁桃体の構造についての関連調査の結果と一致している

※訳は引用者

 
(引用元:Eamon J. McCrory「Amygdala activation in maltreated children during pre-attentive emotional processing」『The British Journal of Psychiatry(2013)202』Cambridge University Press)
 
このような心身への不条理な暴力によって、子供の扁桃体は敏感になっていってしまうのです。
 
扁桃体が敏感になれば、当然、恐怖を感じやすくなり、怒りを感じやすいということになります。
 
些細なことで逃げたくなり、身のすくむ思いがしてしまう。
 
また、些細なことで怒りに火がつき、それを鎮めるだけでも、ものすごい労力を使うことになる。
 
そのような苦しい状況が毎日毎日つづいていく。
 
それはとても生きづらい状態と言えるでしょう。
 
にもかかわらず、周囲の人から容赦なく他の人たちと同じようにふるまうことを求められます。
 
そのために、さらに生きづらい状態が加速していってしまう・・・。
 
扁桃体が敏感な人には、このようにして、どうしても生きづらさがまとわりついてしまうのです。
 
だからと言って「扁桃体だけが生きづらい原因なのだ」と断定してしまうのは、少しお待ちいただいた方がいいかもしれません。
 
その理由はのちほど詳しくご説明させていただきますので、その前に、敏感な扁桃体を抑える方法について見ていきたいと思います。
 
参考文献
熊崎博一他「児童虐待における扁桃体を含む脳の変化」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
 

「生きづらい原因」への対処法

 

┃扁桃体は前頭前野で抑えられる

 
私たちの中に、自動かつ瞬時に恐怖や怒りを湧き起こす扁桃体。
 
気がついたら怖くなっていたり怒っているわけですから、なかなかつき合うのが難しいですよね。
 
しかも、扁桃体が敏感な人であればその反応は大きくなり、しょっちゅう強烈な不愉快さに襲われてしまうことになります。
 
それを少しでも軽くしようとすることは、まさに「生きづらい原因」への対処法だと言えるでしょう。
 
そこであなたも「扁桃体をしっかりコントロールする方法はないか?」と思われたのではないでしょうか?
 
じつは、反応してしまった扁桃体を抑えることができるのです。
 
それは脳の「前頭前野」という部分を使うことで可能になると考えられています。
 

<引用>
前頭前野は感覚情報や記憶などの内生的情報を利用して状況や文脈の表象を形成し、それをもとに扁桃体を中心とした感情反応を能動的に制御していると考えられる。

 
(引用元:大平英樹「感情制御の神経基盤」『心理学評論,Vol47,No.1』心理学評論刊行会)
 
前頭前野は、脳の前方3分の1くらいを占める領域で、他の動物にくらべ人間がもっとも発達している脳部位です。
 
場所は下の画像のとおり、ちょうど私たちのおでこのあたりになります。
 
前頭前野の場所

 
この前頭前野を「使う」ためにはどうしたらいいのでしょうか?
 
前頭前野が得意とすることは、いわゆる「メタ認知」をすることです。
 
メタとは「より上の」という意味ですよね。
 
だから「メタ認知」とは、今自分が認知している状況よりさらに上の認知をするということになります。
 
たとえば、現在自分がどのような感情を味わっているかを「認知」することで、扁桃体の活性が鎮まる傾向があることがわかっています。
 
つまり、メタな視点から恐怖や怒りを冷静に「眺める」ことができたときに、扁桃体を抑えることができるのです。
 
私たちは、恐怖を怒りを感じると、どうしてもそれに飲み込まれてしまいますよね。
 
「私=恐怖」「私=怒り」という認知になってしまいます。
 
じつは、この状態は生き残るために必要な機能だと考えられています。
 
なぜなら、恐怖と怒りは「警告アラーム」だからです。
 
これらの感情と瞬時に一体化しなければ、すぐに逃げることや闘うことはできなくなってしまいます。
 
だから、恐怖や怒りに飲み込まれてしまうことは、決しておかなしなことではなく、人間として自然な反応なのです。
 
ただ、現代の日本において、そこまですぐに逃げなくてはならない状況、闘わなくてはならない状況というのは起きにくいですよね。
 
また、扁桃体が敏感な人は、それらの不快な感情が次から次へと湧いてきやすいわけです。
 
いちいちその感情に飲み込まれていたら、身がもちません。
 
だから、恐怖や怒りという「警告アラーム」を制御する。
 
「警告アラーム」に飲み込まれることなく、メタ認知するわけです。
 
つまり、今警告が鳴っているなと「認知」し、どんな内容の警告で、どれくらいの強さで鳴っているのかと「認知」することで、アラーム音を小さくすることができるのです。
 
参考文献
Belinda J. Liddell他「A direct brainstem amygdala cortical alarm system for subliminalsignals of fear」『NeuroImage 24 (2005)』ELSEVIER
 

┃コントロールではなくマネジメントする

 
私は、この前頭前野を使った扁桃体の制御を「感情マネジメント」と呼んでいます。
 
私たちは、とかく感情をコントロールしようとしてしまいますよね。
 
たとえば、
 
「このくらいで怖がっちゃダメだ」
 
と自分を鼓舞したり、
 
「怖くない、怖くない、もう怖がらないぞ」
 
と自分に言い聞かせたりして恐怖を鎮めようとします。
 
また、
 
「怒るなんて大人げない」
 
と怒りを抑圧したり、
 
「逆に相手のいいところを見つけて感謝しよう」
 
と怒りとは正反対の感情を押しつけようとすることもあります。
 
とくに、「生きづらい」と感じている人は真面目な方が多いので、このような感情のコントロールをおこないがちです。
 
ただそのようなコントロールは、じつは扁桃体に「真っ向勝負」を挑んでいることになってしまいます。
 
扁桃体から「危険」だと判定される可能性が高い。
 
つまり、感情のコントロールは、扁桃体をよけいに反応させる結果になりかねないのです。
 
これは生きづらいと感じている人が、より生きづらくなるという悪循環にはまっていく原因の一つでもあります。
 
だから重要なのは、感情を「マネジメント」することです。
 
感情を直接コントロールしようとするのではなく、「遠巻きに管理」していくのです。
 
そのためには、まず自分が恐怖していること、怒っていることを「認知」する必要があります。
 
それが感情マネジメントの大前提です。
 
部下をマネジメントするためには、まず自分に部下がいることを「認知」しなければはじまらないのと同じことです。
 
そうしてはじめて、感情マネジメントに本格的に取り組むことができます。
 
言うなれば、「自分」と「感情」のあいだに距離を取って相対化するわけですね。
 
イタリアの精神医学・心理学者であるロベルト・アサジオリの言う「脱同一化」は、まさにこれに当たるのではないでしょうか。
 
自分の感情、欲求、後悔、衝動などに自己が飲み込まれている状態が「同一化」。
 
一方、自分の感情、欲求、後悔、衝動とは別に、それらを観察する自己が存在する意識状態をつくることが「脱同一化」です。
 
そして哲学者ユージン・ジェンドリンが考案した有名なセルフ心理療法である「フォーカシング」も、感情や感覚を相対化するという点で相通じるものではないかと思います。
 
それらの「方法」というもの自体を否定していたジッドゥ・クリシュナムルティの、洞察の果てにある「観る者が観られる者になる」という状態は、その認知すらなくなるメタ認知の極致ではないかと思います。
 
脳科学、精神医学、心理学、哲学、思想・・・。
 
いずれの分野においても「メタ認知」という共通の仕組みが内包されていることは、本当に興味深いことです。
 
いずれにせよ、感情をマネジメントし、扁桃体を上手に抑えるためには、まずなによりも、自分が不快な感情に包まれていることを知るところからはじめる必要があると言えるでしょう。
 
参考文献
ロベルト・アサジョーリ「サイコシンセシス」 誠信書房
 
ユージン・T・ジェンドリン「フォーカシング」福村出版
 
ジッドゥ・クリシュナムルティ「クリシュナムルティの瞑想録」平河出版社
 

┃扁桃体をいたわる生き方をする

 
扁桃体を制御する方法がわかったとは言え、これを実践するには、相応の訓練が必要になるでしょう。
 
感情に飲み込まれずに相対化することだけでも、慣れるまではなかなか苦労するかもしれません。
 
また、自分に起こるすべての恐怖や怒りが、前頭前野のメタ認知だけで制御できるとも限りません。
 
扁桃体が敏感な人は、大きな恐怖や怒りがわき起こりやすいでしょう。
 
さらに、恐怖や怒りがわいてくる回数も多いはずです。
 
これらの膨大なストレスを、メタ認知という「心」の技法だけで制御しようとすることは、現実的ではないと言えるのではないでしょうか。
 
「心」の技法の効果を十分に発揮するためには、扁桃体がしずまりやすい「環境」を整えることがとても重要でしょう。
 
また、キンドリング現象を避けるためにも、そもそも扁桃体が反応しにくい「環境」に身を置いて予防しておくことも大切になります。
 
また、臨戦態勢を解き、よけいなストレスのかからない「体」に整えておく必要もあります。
 
リラックスできる呼吸や体の柔軟性を保つことは、その代表的なものと言えるかもしれません。
 
つまり、扁桃体を上手に制御するためには、「体」と「心」と「環境」という三つを同時に整える必要がある。
 
「生理」と「心理」と「物理」の【三理一体】で、扁桃体をいたわってあげる必要があるのです。
 
言うなれば、生き方全体で扁桃体をいたわっていくということです。
 

参照記事:「三理一体の法則

 
私たちは、どうしても恐怖や怒りといったネガティブ感情をなんとか解決したいと思うとき、いずれかの「理」にかたよってしまう傾向がありますよね。
 
とくに「心理」にかたよって、自分の考え方やものごとのとらえ方だけで解決しようと努力する傾向が強いのではないでしょうか。
 
しかし、今まで見てきたとおり、心だけで感情に対処することはとても大変なことです。
 
ましてや扁桃体が敏感な人であれば、なおさらそれは「苦行」となってしまうでしょう。
 
だからもしあなたが生きづらいと悩んでいて、大きな恐怖や怒りという感情に振り回されて苦しんでいるのなら。
 
ぜひ「三理一体」で生き方全体を整えて、扁桃体をいたわってあげてください。
 
ここからはいよいよ、これまでのお話を踏まえて「結局、生きづらい原因とはなんなのか?」という問いの答えに迫ってみたいと思います。
 
参考文献
しのぶかつのり「生きづらさから脱け出す実践法」コスモス・ライブラリー
 

「生きづらい原因」とはなんなのか?

 
 
生きづらいと感じている女性の画像

┃よく挙げられる「生きづらい原因」

 
じっさいにカウンセリングをおこなっていると、ご相談者様自身が、その「生きづらい原因」として、さまざまな目星をつけておられます。
 
虐待経験、いじめ経験、HSP、見捨てられ不安、自己嫌悪、アダルトチルドレン、毒親、自己肯定感の低さ、エンパス体質・・・。
 
お聴きしていると、たしかに私自身にも当てはまるものがいくつもあります。
 
そして、それぞれの方が語る論理は、生きづらさとその原因の関係を的確に言い当てていて、たいへん納得のできるものです。
 
ただ、それらの「生きづらい原因」には、共通してスッポリと抜け落ちている点が1点だけあるのです。
 
その一点とはなにか?
 
それは、その方たちと同じ状態の人でも「生きづらいとまでは感じていない人がいる」という点です。
 
どの論理も、その一点だけをどうしてもハッキリと説明できないのです。
 
たしかに、それらの「原因」とされるものをもっている人には、生きづらい人が「とても多い」とは言えるでしょう。
 
でも、悩んだり不安を感じていても「生きづらい」とまでは感じていない人もいる。
 
なかには「ケロ」っとして気楽に暮らしている人もいるのもたしかです。
 
つまり、「生きづらい原因」とされる状態に当てはまる人だったとしても、確実に「生きづらい」とはかぎらないということ。
 
だから、先ほど挙げた「生きづらい原因」とされるものも、「これが原因だ」と断言までしてしまうことはできないのではないか。
 
多くの方へのカウンセリング経験から、私はそのように考えるようになりました。
 

┃扁桃体が敏感だと生きづらい

 
では、「生きづらい原因」をもっているはずなのに、生きづらい人とそうでない人が分かれるのはなぜなのでしょうか?
 
たとえ「生きづらい」とされる状態であったとしても、生きづらくない人がいるのはなぜなのでしょうか?
 
それは「扁桃体の敏感度が違うから」ではないでしょうか。
 
今まで見てきたとおり、扁桃体が敏感であれば、かんたんに恐怖や怒りといった「不愉快な感情」がわき出てきます。
 
他の人にとってはなんてことはない事実であっても、扁桃体が敏感な人にはとても大きな衝撃が訪れる。
 
目の前の世界が不愉快さに満ちているのです。
 
しかし、たとえ同じ事実に遭遇したとしても、扁桃体が敏感ではない人は不愉快にならず、衝撃も受けないでしょう。
 
つまり、「生きづらい」という世界の性質は、事実ではなくて、その事実を受け止める扁桃体によって決まるということです。
 
これは、私がそう予想しているだけではなく、実験結果でも明確に示されています。
 
被験者にポジティブともネガティブともとれる「驚いている表情」を見せる実験です。
 

<引用>
驚き表情が否定的に見える場合ほど扁桃体が賦活し、肯定的に見える場合ほどVMPFC(腹内側前頭前野=引用者注)の活動が高まることが明らかになった。

 
(引用元:大平英樹「感情制御の神経基盤」『心理学評論,Vol47,No.1』心理学評論刊行会)
 
つまり、同じ事実を見ても、扁桃体が反応する人と前頭前野が反応する人がいるのです。
 
だから、その人がどんなに生きづらそうな状況だとしても、じっさいに生きづらいとはかぎらない。
 
その人がどんな事実に出くわしたとしても、結局は最終的に扁桃体が不愉快かどうかを判断する。
 
「扁桃体が敏感かどうか」で不愉快さが決まるのということです。
 
もちろん、人類のすべてが不愉快だと感じる状況や事実もあるかもしれません。
 
でも、その場合においても、扁桃体が敏感な人はより大きな不愉快さに包まれるでしょう。
 
つまり、扁桃体が敏感な人は、どうしようもなく「生きづらい」のです。
 

┃それでも扁桃体だけが原因とは言い切れない理由

 
ただし「扁桃体が敏感な人は生きづらい」からと言って、必ずしも生きづらい原因が「扁桃体だけ」によるものだとはかぎりません。
 
ここはとても重要なポイントです。
 
たとえば、もし扁桃体が敏感ではない人であっても、これでもかというくらいネガティブな「考え方」をする人だとしたら。
 
扁桃体が耐えきれず、日常的に大きな恐怖や怒りをわき起こして、毎日が生きづらいと感じるものになるかもしれません。
 
また、扁桃体が敏感ではなく、「考え方」もとてもポジティブであったとしても、それを凌駕するくらい悪質な「環境」のブラック企業に勤めつづけていたとしたら。
 
やがて限界を迎えて、生きづらいと思えるほど人生が苦しくなってしまうかもしれません。
 
つまり、生きづらいのかどうかも「三理一体」で決まるということです。
 
決して「扁桃体だけ」が原因なのではなく、その人の生き方全体が「生きづらい原因」となりうるのです。
 
そして、そもそも扁桃体そのものについても、まだまだよくわかっていない点がとても多くあります。
 
最近の研究では、扁桃体がネガティブな感情以外にもかかわっているという実験結果が増えてきています。
 
たとえば被験者に「よろこび」「怒り」「悲しみ」「どちらともとれる表情」の4つの表情の動画を見せる実験がおこなわれました。
 

<引用>
その結果,中性表情に比べ怒り,喜び表情ともに有意に強い肩桃体,淡蒼球,前頭前野内側部の賦活が認められた。しかしながら,悲しみ表情では肩桃体の賦活は認められなかった。

 
(引用元:森岡陽介他「表情動画を用いた肩桃体賦活の検討」『生理心理学と精神生理学28(1)』北大路書房)
 
なんと、ポジティブな表情のときに扁桃体が反応して、悲しみには反応しなかったのです。
 
実験対象に「恐怖」の表情が含まれていないので、いちがいに比較はできませんが、ポジティブな刺激に対して扁桃体が反応したことはたしかです。
 
また、脳の機能は一方通行ではありません。
 
まるで扁桃体が単体でピコピコ反応しているかのように語ってきましたが、脳のなかには出力と入力が相互に入り組んでいる、複雑なネットワークが組まれています。
 
扁桃体が反応していたからといって、「扁桃体だけが原因」とはなかなかかんたんには言えないのです。
 

まとめ

 
今ご覧いただいてきたとおり、恐怖や嫌悪に関連する脳の扁桃体が敏感な人は生きづらいと感じるかもしれません。
 
一方、 扁桃体にもまだわからない点が多く、また生きづらいという問題には、多くの要因が重なっており、原因を一点に限定してまうことは賢明ではないと言えるでしょう。
 
だから、生きづらさに対する「原因探し」はほどほどにしておいた方がいいかもしれません。
 
そうしないと、いつまでも「あれも違う、これも違う、また違った」と、「生きづらい原因探しの迷宮」から出られなくなってしまうかもしれません。
 
生きづらい原因は生き方全体でとらえる。
 
三理一体で考えていく。
 
その「メタ認知」が、生きづらさから脱け出す重要な一歩となるでしょう。
 
当コラムの参考文献一覧
Joseph E. LeDoux「Emotion Circuits in the Brain」『Annual Review of Neuroscience(2000)Vol.23』
 
佐藤弥「扁桃体と視覚」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
 
友田明美「被虐待者の脳科学研究」『児童青年精神医学とその近接領域 57巻(2016)5号』日本児童青年精神医学会
 
Eamon J. McCrory「Amygdala activation in maltreated children during pre-attentive emotional processing」『The British Journal of Psychiatry(2013)202』Cambridge University Press
 
熊崎博一他「児童虐待における扁桃体を含む脳の変化」『Clinical Neuroscience(2014)Vol.32,6』中外医学社
 
大平英樹「感情制御の神経基盤」『心理学評論,Vol47,No.1』心理学評論刊行会
 
Belinda J. Liddell他「A direct brainstem amygdala cortical alarm system for subliminalsignals of fear」『NeuroImage 24 (2005)』ELSEVIER 
 
ロベルト・アサジョーリ「サイコシンセシス」 誠信書房
 
ユージン・T・ジェンドリン「フォーカシング」福村出版
 
ジッドゥ・クリシュナムルティ「クリシュナムルティの瞑想録」平河出版社
 
しのぶかつのり「生きづらさから脱け出す実践法」コスモス・ライブラリー
 
森岡陽介他「表情動画を用いた肩桃体賦活の検討」『生理心理学と精神生理学28(1)』北大路書房
 
関連コラム
生きづらさとはいったいなにか?
扁桃体が世界の性質を決める
扁桃体の本質
扁桃体が敏感だと自覚する
敏感な扁桃体で生きる
心のアンテナのいたわり方
 
【残り1席!】
人間関係がどうしても苦手な人へ 脱世間起業塾開催
 

おかげ様でコラム数500本突破!

読むと心が強くなるコラム

「読むだけで生きる勇気が湧いてくる」と大好評をいただいている、しのぶかつのり(信夫克紀)の連載コラムです。
もちろん<無料>でお読みいただけます。