引きずるか、引きずらないか

葛藤の分岐点
第7回
引きずるか、引きずらないか
┃悩みを引きずってなにも手につかない
ここまで、葛藤が人間関係の悩みを複雑化していく「仕掛け」について見てきました。
それによって、葛藤から脱け出すポイントや、葛藤が中断されるポイントもわかってきました。
しかし、まだ重要な「葛藤の分岐点」が残されています。
それが「第六の分岐点」、
“引きずるか、引きずらないか”
です。
人間関係の悩みは、相手が目の前にいるときだけに生じるとはかぎりません。
人とのあいだに問題が起きたあと、相手がそばにいなくなっても、容赦なく悩みが生じる。
つまり、悩みを引きずるわけです。
もちろん、誰もが悩みを引きずるわけではなく、引きずらない人もいます。
悩みを引きずらない人は、問題が起きた場を離れ、相手が目の前からいなくなってしまえば、他のことに集中することができます。
ときおり思い出すことがあったとしても、「ああ、いかんいかん」と首をフリフリ、悩みを振り払うこともできるのです。
しかし、悩みを引きずりやすい人は、そうはいきません。
問題が起きたときに生じた不愉快な感情が、その場を離れてもいっこうに消えない。
相手が目の前にいなくても、何時間経っても、鮮度を保ったフレッシュな不愉快さがピッタリとまとわりついてくるのです。
ひどい場合は何年経っても、いえ、何十年経っても、自然と思い出されては感情が揺さぶられます。
しかも、劇的な事件や事故があったわけではなく、それこそ「人と肩がぶつかった」という程度のことでも、いつまでも引きずってしまうのです。
さらに問題なのは、悩みを引きずる人は、過去を引きずるだけではなく、未来をも引きずるということ。
同じ相手にこの先も会うことを考えると、怒りや心配や不安で胸がいっぱいになってしまい、いてもたってもいられなくなるのです。
問題が起きてから時間が経ち、すでに違う人と会い、違う場所にいて、違うことをしているにもかかわらず、過去も未来も気になってしまう。
不愉快な感情がまとわりついて、頭から離れない。
悩みを引きずりやすい人は、悩みのせいでかんたんに、なにも手につかない状態になってしまうのです。
┃悩みを引きずる人は葛藤しつづける
悩みを引きずる人は、一人でいつまでも葛藤しつづけます。
たとえば、通勤途中に人と肩がぶつかったとき。
まず第一から第五の「葛藤の分岐点」で、ひとしきり葛藤します。
その後、会社に到着。
当然、ぶつかった相手はすでに目の前にはおらず、現場からも離れて時間も経っています。
にもかかわらず、先ほどの事件に引きずられてしまう。
怒りや、相手の態度への不満、思いどおりに対応できなかった悔しさが、次から次へとあふれ出してくるのです。
そして、引きずってしまう力と、引きずらないようにしようとする思いの狭間で葛藤しはじめます。
「もう済んだことだろう」
「こんなことくらい気にするな」
「今は目の前の仕事に集中しよう」
しかし、いっこうに引きずる力は弱まりません。
そこで、苦しい葛藤を解消するために、頭のなかで事件を反復し、また第一から第五の「葛藤の分岐点」を通過してしまう。
つまり、あらためて葛藤しなおしてしまうのです。
その上、ぶつかった相手とまた明日も通勤途中に顔を合わせてしまうのではないかという不安も加わり、どう対応したらいいかと想像をはじめてしまう。
そこでまた第一から第五の「葛藤の分岐点」を通過し、葛藤に苦しむ…。
悩みを引きずる人は、問題が起きている最中にも苦しみ、終わったあともくり返しくり返し延々と苦しむことになるのです。
では、いったいどうすれば、人間関係の葛藤の苦しみから逃れることができるのでしょうか?
次回は、その具体的な方法を見ていきたいと思います。
Brain with Soul代表
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶ かつのり(信夫克紀)
おかげ様でコラム数500本突破!