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逃げるというチャレンジ

 

虐待の後遺症のイメージ

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虐待の後遺症

 

第18回
逃げるというチャレンジ

 
前回ご紹介した「逃げるな虐待」をおこなった親、そしてその被害を受けた人たちは、「逃げることすべては悪いこと」という間違った価値観からなぜ脱け出すことができないのでしょうか?
 
それは「逃げる」と「ズル」を混同しているから。
 
逃げるな虐待」の加害者である親はもちろんのこと、その被害を受けた人も、本来まったく違う言葉であるはずの「逃げる」という言葉と「ズル」という言葉の意味の差がわからなくなってしまっている。
 
そのため、まったく同じ言葉のように使ってしまっているのです。
 
そもそも「逃げる」という言葉は、「危機」から身を守り回避する行動を意味します。
 
つまり、自分や大切なものが危険にさらされたときに、その危険をもたらすものから距離をとる当然の行動です。
 
それに対して「ズル」は、自分の利潤を追い求める行動です。
 
守る必要も回避する必要もないのに、単純に自分が得をしたいからとる行動。
 
「逃げる」という行動とは、まったく違う行動です。
 
たとえば、割り振られた仕事が面倒くさいからと「今、いそがしいので」と断ってしまうのは「ズル」だと言えるでしょう。
 
ただたんに自分が楽をするという利潤を得るために、仕事を断っているにいるに過ぎないからです。
 
しかし本当にいそがしく、体調の不安を抱えており、今日は早く帰って体を休めなければ心身の調子に影響が出てしまうと感じてその仕事を断るのであれば、それは「危機」を回避するための行動、すなわち「逃げる」になるでしょう。
 
この二つの行動は、外側から見れば同じ行動に見えるかもしれません。
 
しかし、動機に焦点を当てるとそれはまったく違う行動なのです。
 
逃げるな虐待」を受けた人は、この「逃げる」と「ズル」の区別をつけることができません。
 
いえ、その区別があることすら知らない。
 
そんなふうに育てられてしまったのです。
 
そして、すべての「逃げる」を「ズル」だと感じてしまい、
 
「逃げることは甘えている」
「逃げることは卑怯である」
「逃げることは弱さである」
 
と考え、「危機」を目の前にしても「逃げる」を選べずに、みずからを追い込んでいってしまうのです。
 
これは、本当にしんどい状況です。
 
だからこそ、そんな間違った価値観を植えつけられた人にとっては、「逃げる」ことこそがチャレンジなのです。
 
もしもあなたが「逃げるな虐待」の被害者であるなら、あなたにとっての勇敢な闘いとは「逃げる」ということ。
 
「逃げる」ことから逃げないことが、あなたに課せられた新たな挑戦なのです。
 
『Can’tの自分』を受け入れ、自分を迎合させてしまう「環境」がわかったのなら、それから徹底的に「逃げる」ことがあなたにとっての闘い。
 
それは決して甘えではなく、卑怯でもなく、弱さでもない。
 
ここまで闘い抜いてきたあなたにふさわしい、果敢なチャレンジなのです。
 
ここであらためて問いたいと思いますが、「逃げる」こととはそんなにも価値の低い行動なのでしょうか?
 
このような「逃げる=低価値」という考え方というのは、「逃げる」という言葉に対してたいへん失礼であると私は思います。
 
なぜなら私もあなたも、今生きていられるのは私たちの祖先が猛獣、自然現象、敵などから逃げに逃げて逃げまくって、逃げ切ったからではないでしょうか?
 
「闘う」だけではなく、「逃げる」ことによって私たちはこの命をつないできたのです。
 
その尊い行為を「低価値」あつかいするのは、まったくけしからんことだと思います。
 
また世間でよく見かける、他人に「逃げるな」という人は、自分が逃げられない立場にいるから道ずれを欲しがっているだけに過ぎません。
 
さらに、「俺は逃げたことがない」という人は、逃げた自覚がないだけです。
 
逃げたことのない人など、この世界に存在していません。
 
誰もがみな自分にとっての「危機」を自分の基準によって回避し、日々逃げているのですから。
 
逃げたという自覚があればこそ、当然その状況に関わる自分以外の人たちに対して罪悪感や後ろめたさを感じることになるでしょう。
 
もっと他によい方法はなかったのかと葛藤するでしょう。
 
しかしその葛藤があるからこそ、私たち人間は変化していけるのではないでしょうか。
 
その葛藤をなくしてしまったら、つまり、逃げたことに罪悪感も後ろめたさも感じなかったら、私たちはその貴重な経験を活かしていくことができないのです。
 
迎合という虐待の後遺症を乗り越えるために、あなたは新たな人生の「方向」へと自らの努力を振り向ける必要があります。
 
そのためには、迎合の衝動をもたらす「環境」から「逃げる」ということにチャレンジする。
 
「逃げるな虐待」によって植えつけられた苦しいだけの価値観に打ち克つのです。
 
あなたほどの苦しみを経験し、今日まで生き抜いてきた「勇者」にとって、相手として不足はないのではないでしょうか?
 
次回はそのチャレンジの先にある、迎合を乗り越える道筋をご紹介します。
 
Brain with Soul代表
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶ かつのり(信夫克紀)
 

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