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「かわす」努力

 

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虐待の後遺症

 

第20回
「かわす」努力

 
『Can’tの自分』を受け入れて、自分を迎合させてしまう「環境」から離れるという新たな「方向」へと人生の舵をきったとき。
 
「逃げる」ことだけに全力で努力するのではなく、周囲の人たちとのよけいな摩擦が起きないようにすることにも努力を上手に「配分」し、人間関係の摩擦を減らす準備や工夫をすることが大切です。
 
前回はその必要性についてご紹介しました。
 
では、じっさいにどうすればいいのでしょうか?
 
前回の「職場の配置がえ」のたとえをつかって、具体的な方法をご紹介していきましょう。
 
前回のように、自分を迎合させてしまう「環境」から逃げる努力が実り、無事に部署を異動できたとします。
 
しかし、もといた部署の同僚、部下、上司とどうしても顔を合わせなくてはならないときがあり、引きとめられたり、非難されたり、邪魔されたりすることが出てきます。
 
そんなときに必要な努力とは「ほほ笑みと返事」です。
 
つまり「かわす」努力。
 
相手の言動に対して深刻な表情で拒否したり、言い訳したり、謝ったりすることなく、ほほ笑んで必要最低限の返事だけをする。
 
この瞬間は、そのことだけに全精力を注ぎ込むのです。
 
人というのは最低限の返事だけをされると、それ以上は言葉をつなげられなくなるものです。
 
なぜなら、そこで無理に何かを言おうとすれば、より深く相手の心情に「突っ込む」ことになるからです。
 
そうなれば、混み入った話にならざるをえなくなりますし、しつこく食い下がるような形になってしまうため、その場が不愉快な空気になってしまいます。
 
だから、聞かれたことに対して必要な返事だけされてしまうと、なかなか会話をつづけることができないのです。
 
ただし、その返事を無愛想にしてしまったら、話しかけてきた人も邪険にあつかわれた気分になり、よけいな角が立ってしまいます。
 
そこで、ほほ笑みを浮かべながら最低限の返事をするのです。
 
そのほほ笑みによって、相手に不愉快な思いをさせることを避けることができますし、さらに態度に余裕を感じさせるため、それ以上その話題に対して突っ込んではいけない雰囲気をかもし出すことができます。
 
もちろん、その相手はもともと自分を迎合させてしまうような相性の人なのですから、本当は余裕なんてもてないでしょう。
 
だから、心のなかはドキドキでかまわない。
 
ドキドキしたまま、ほほ笑んで返事をすればいいのです。
 
そこにこそ努力をする。
 
その短い時間だけは、ほほ笑んで返事をすること「だけ」に労力を集中させるのです。
 
つまり、どうしても自分を迎合してしまう「環境」と接さなければならないそのときだけ、「逃げる努力」ではなく、ほほ笑みと返事という「かわす努力」に集中するのです。
 
このような対応は、ぶっつけ本番でできるものではありません。
 
事前にいくつか返事を用意しておいて、それをほほ笑んで言う練習が必要です。
 
たとえば
 
「そんな地味な部署やめて、こっち戻ってきなよ。俺から部長に進言してあげようか?」
 
と引きとめてくれる同僚には、
 
「ありがとう。でも大丈夫。」
 
と、ほほ笑んで返事をする。
 
「そっちは楽そうでいいっすよねぇ~。こっちは人手が足りなくていっぱいいっぱいですよ。」
 
非難めいたことを言う部下には、
 
「そうなのか。こっちもそれなりにはバタバタしてるよ。」
 
と、ほほ笑んで返事をする。
 
「・・・・・・・。」
 
と無視をしてくる上司には、
 
「では、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。」
「失礼します。」
 
と、ほほ笑んで挨拶だけする。
 
こんなふうに、いくつかの返事(挨拶)のパターンを用意しておくのです。
 
そして、それをじっさいに声に出して練習してみます。
 
短い言葉ですが、はじめのうちは紙に書いてそれを読み上げた方が楽に口にすることができるでしょう。
 
慣れてきたら、紙を見ないで言う練習をしてみましょう。
 
はじめのうちは声がかすれたり、ノドが詰まったように感じるかもしれません。
 
でも、なんども口にしているうちに、次第に適度な声の大きさで自然と言葉にできるようになっていきます。
 
返事のパターンを自然と声に出すことができるようになってきたら、次はほほ笑みの練習をしてみましょう。
 
満面の笑顔になる必要はありません。
 
口角を「ニッ」と少しあげて、ほんのちょっと口を開くだけでほほ笑みの表情であることは相手に十分伝わります。
 
軽く目じりとほおをゆるめるていどのイメージでほほ笑んでみましょう。
 
少し照れくさいかもしれませんが、どんな表情になっているのか鏡でしっかり確認することが大切です。
 
ほほ笑みも上手につくれるようになったら、先ほど練習した返事のパターンとその表情を組み合わせてみましょう。
 
ほほ笑みながら、じっさいに、
 
「ありがとう。でも大丈夫。」
 
「では、よろしくお願いします。」
 
と声に出して練習していくのです。
 
これも、鏡を見ながら取り組んでみましょう。
 
はじめは、不自然になってしまうかもしれませんが、回数を重ねるごとに表情と言葉がマッチしてくる感覚をつかめるようになるはずです。
 
より自分になじませるために、ふだんの生活の合間に口にしてみたり、比較的接しやすい人に向かってじっさいにほほ笑んで返事してみることも身につけるうえで効果的でしょう。
 
このように、「逃げる」というチャレンジ以外にも、「かわす」ために努力を「配分」する。
 
これによって、よりよくスムーズに「逃げる」ことができるようになるのです。
 
次回は、虐待の後遺症をもつ人が、それでも逃げ切れなくなったときの考え方や対処法についてご紹介します。
 
Brain with Soul代表
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶかつのり(信夫克紀)
 

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