頼られているのか?利用されているのか?

アダルトチルドレンを「本気」で克服する方法
第78回
頼られているのか?利用されているのか?
┃「頼られるよろこび」で人生が崩壊したAさん
Aさんが、そろそろベッドに入ろうとしたそのとき。
今夜も、スマホにメッセージ。
「今からちょっとだけ話せる?」
相手は、先月好きなミュージシャンのライブで知り合った女友だち。
同性同士というのもあって、気軽に連絡を取り合うようになった。
苦労した生い立ちも似ていて、急速に仲良くなっていった。
もともと友人の少ないAさんにとって、初めて親友ができたようで、心が弾むようだった。
最近は頻繁に「相談に乗ってほしい」と言われるようにもなり、
「私、頼られてる」
と、自信にも似た充実感を味わっていた。
最初は週に1回、1時間ていどの電話。
友だちは必ず、
「ありがとう、やっぱりAは頼りになるね」
と言ってくれる。
それがうれしくて、早く次の電話がこないかなと思う日がつづいた。
逆に自分の方が、彼女に支えられている気がした。
やがて電話の時間は、2時間、3時間と伸びていき、相談は深夜までつづいた。
週に一度だったペースも週に3回に。
次第に、毎日電話で深夜まで相談を受けるようになるのが当たり前になっていた。
会社では、眠気のあまりミスをするようになり、上司から叱責され、体も心も調子を崩すことが増えてきた。
そのことを友だちに電話で伝えると、
「でもAが話を聞いてくれるおかげで、私、すごく楽になれてる、本当にありがとう」
と感謝の声をかけてくれる。
そして、
「無理しなくてもいいんだよ、嫌だったら断ってね」
とちゃんと遠慮もしてくれる。
ただ、相談の電話が止むことはなかった。

さらに、ライブのチケットを取るのを頼まれたり、「忙しいからお願い」と友達のSNSの投稿をAさんが代わりに毎日やるようにまでなっていった。
掃除するヒマもなく、部屋は散らかっていき、体と心の調子はさらに悪くなる一方。
さすがにAさんが、
「今日はちょっと体調が悪くて…」
と断ろうとすると、
「どうしても今日だけは話を聞いてほしいの」
と自分を求めてくれる。
(この人には、私しか頼る人がいないんだ)
そう思って相談に乗りつづけ、代わりにいろいろやってあげると、友だちはうれしそうに、
「本当にありがとう・・・」
と涙を流して感謝してくれるのだった。
しかし無理がたたって、Aさんの心と体は、とうとう言うことをきかくなってしまった。
ついには会社を無断欠勤してしまい、上司からは事情聴取のメールが届き、ますます連絡しにくくなって、そのまま会社をやめる事態にまで発展した。
病院に行こうにも、再就職をしようにも、友だちの相談と要望にこたえることにエネルギーを使い果たしてしまい、とてもその余裕がない。
心配して連絡をくれた会社の同僚との約束もすっぽかしてしまい、メールで事情を説明するのすら怖くなり、数少ない味方がどんどんと減っていく日々。
そしてとうとう、当の友だちからの相談電話も途絶えてしまった。
なぜなら預金が底をつき、スマホの料金を支払えなくなったからだ。
このままでは今月末の家賃を支払うこともできない。
ベッドの上で横になったまま天井をボンヤリ見つめるAさんの口からは、ため息と一筋の涙とともに、小さなか声がこぼれ出た。
「私・・・、なにやってるんだろう」
┃「頼られる」と「利用される」の違いとは?
上のエピソードを読んで、あなたはAさんが「頼られている」と感じましたか?
それとも「利用されている」と感じたでしょうか?
おそらく「利用されている」と感じる人が多いのではないかと思います。
アダルトチルドレンと自覚されている方のなかには、Aさんのような体験をされている方、じつは少なくないんです。
そして、
「私は利用されていただけだった」
と後悔して、そんな自分を責めてしまう・・・。
とてもつらいですよね。
では、「頼られる」と「利用される」の違いは、いったいなんなのでしょうか?
それがわかれば、利用されるのを防ぐことができますよね。
まず、「利用される」とは、相手が自分を都合よく使ってこようとすることだと言われています。
つまり、損得勘定が先に立ち、一方的で不公平な関係を押し付けられて、自分ばかりが疲弊させられてしまうものだと。
一方「頼られる」とは、相手が自分を信頼して協力を求めてくることだと言われています。
相手が感謝を示してくれ、こちらの都合にも配慮して、対等な関係のなかで支え合えることだと。
そこで世間一般では、「頼られる」と「利用される」の違いは、次のような基準で見分けるのがよい、と言われがちですよね。
・相手が感謝を伝えてくれているか
・遠慮や配慮をしてくれているか
・対等な信頼関係を確認し合えているか
たしかに、これにまったく当てはまらなかったら即「利用されている」と言えそうです。
でも・・・。
Aさんの友達はちゃんと感謝も遠慮もしてくれていましたよね。
そして無理やり命令していたわけでもなく、Aさん側もメリットを感じて互いに支え合えていると思っていました。
にもかかわらず、なぜAさんのケースは「利用されている」と感じられるのでしょうか?
それは、先ほど見た世間一般で言われている判断基準から「ある根本的な視点」がスッポリ抜け落ちているからです。
そのために、「頼られている」か「利用されている」かの基準として役に立たない状態になっているのです。
では、その「ある根本的な視点」とはいったいなんなのでしょうか?
┃感謝の言葉は「判断基準」にならない

「頼られている」か「利用されている」かを見極める。
そのために必要な「根本的な視点」。
その答えをお話ししたいと思います。
というか、あなたはすでにご存じのはずです。
そう。
感謝や遠慮、対等な信頼関係なんて、上辺の言葉だけでどうにでも取り繕えるということを。
そして、そのように取り繕う人たちで、この地球はあふれ返り、私たち自身もその一人だということを。
そしてそれは当然のこと。
思ったことだけを正直にそのとおり言葉にして生きていくことなんて、そうかんたんにはできないのですから。
つまり私たち人間は、言葉だけでは相手がどう思っているかを、決して判断できないということです。
それどころか、あなたを利用しようと思っている人ほど、感謝や遠慮の言葉を伝えてくることが多いものです。
よりあなたを利用しやすいように。
つまり、感謝や遠慮の言葉を、あなたを利用するための道具として使ってくることすらあるということです。
そして、あなたにとってのメリットをことさら強調し、公平な関係であることをしきりにアピールしてくる。
だからなかなか利用されていることに気づけない。
下手をすると、利用している側も気づけてない。
お互いに「頼られている」「頼っている」と勘違いしながら、一方的な搾取とも呼べる利用関係がつづいてしまうのです。
だから相手が、感謝や遠慮、対等な信頼関係を示しているかどうかは、自分が「利用されているか」という判断基準にはなりえない。
世間一般の判断基準では「頼られている」か「利用されている」かはわからないのです。
ではいったい、どうすればいいのでしょうか?
自分が「頼られている」か「利用されている」かを判断するためには、なにを基準にすればいいのでしょうか?
┃たった一つのシンプルな基準

「頼られている」か「利用されている」か。
それを判断するための基準は、じつはとてもシンプルです。
それは、相手があなたのどこに価値をおいているのか。
具体的に言うと、相手があなたの「魂」を見てくれているかどうか。
ただ、それだけです。
といっても、オカルトな話をしているわけではありません。
別の言い方をすれば、あなたの「存在そのもの」に敬意を払ってくれているかどうか、ということ。
つまり、あなたがこの世界に存在しているということ、そのこと自体に価値を感じているかどうか、ということです。
それは、あなたがこの世界にとって必要な人だと、相手が感じてくれているということにほかなりません。
だからこそ相手は、自分だけがあなたの時間や能力を占有してはいけないと考えて、遠慮もするし、配慮もする。
多くの人とともにあなたの時間や能力を共有するべきだと考えている。
だから、あなたが自分のためだけにその時間や能力を使ってくれたときに、素直に心から感謝できる。
わざとらしく言葉になんてしなくても自然と、感謝も遠慮も配慮も信頼も、相手からにじみ出てくるのです。
これが「頼られている」という状態。
つまりあなたの存在そのもの、言うなれば「魂」に価値を感じ、敬意を払ってくれている状態です。
一方、「利用されている」という場合・・・。
相手は、あなたの時間や能力、所持品や金、肉体や心という、上辺の「リソース」にしか価値を感じていない。
そして、あなたを「自分にとって必要な人」だとしか考えていない。
だから、あなたの「リソース」を、いかに自分のためだけに使おうとするか考える。
そのため、できるだけ多く効率よく都合よくあなたの「リソース」を引き出そうとする。
自分のためなのだから、あなたを「世界の共有財産」とはみなさずに、「自分の所有物」だとみなしてしまう。
あなたの体も心も金も時間も労力も「自分の所有物」だと感じている。
だから感謝の言葉も、あなたの「リソース」を引き出すための道具として使ってくる。
遠慮がちな態度を取りながらも、その裏で要求はエスカレートしてくる。
あなたの「魂」を見ようとしないため、あなたが世界にとって必要な存在だという感覚が欠如している。
お互いの存在そのものが、それぞれ世界の貴重な財産であるという事実に気づくことができない。
その結果、できるだけあなたの「リソース」を自分のためだけに使おうとしてくるのです。
まるで自分の手足のように、こうしてくれ、ああして欲しいと。
┃アダルトチルドレンだからこそ気をつけたいこと
アダルトチルドレンだと自覚されている人は、人間関係で苦しんできた方ばかりです。
そのため、孤独な人生を歩んできた方が非常に多くおられます。
そのため、相談ごとやお願いごとをされると「頼ってもらえた」と、どうしてもその関係にのめり込んでしまうことがあります。
あなたにも思い当たることがありますでしょうか?
私にもあります。
だからこそ、今回ご紹介した「頼られている」か「利用されている」かという視点で、相手との関係を見極めてみてください。
これは一見複雑な問題のようですが、根本はとてもシンプル。
「相手があなたの魂を見ているかどうか」それだけです。
その視点が抜けていると、気づかぬうちに利用されてしまうことになってしまいます。
そして、逆に自分が相手の善意を利用してしまうことにもなってしまうでしょう。
もちろん、互いが互いを占有し、命懸けでなにかを達成しなければならない。
そのようなときも、たしかにあるでしょう。
でも、そんなケースは非常にマレなはずです。
日常生活を送るなかでは、そうそうありえないことだと言えるでしょう。
その「マレ」を、ごく当たり前のことのようにあなたとの関係にもち込んでくる人がいたらご用心。
その人は、あなたの「魂」を見ているのではない。
あなたの「リソース」に価値を感じているだけなのですから。
┃「魂」で相手を見極めるとはどういうことか?

とはいえ・・・。
「魂なんて目に見えないもので判断するなんて、どうにも怪しい・・・」
たしかに、そう感じますよね。
しかし、じつはそんなに珍しいことではありません。
私たちは日常的にそれを自然とやっているのです。
たとえばあなたが、とても大切な人からもらった手紙があるとします。
たどたどしい字で書かれた、でも一生懸命に書いてくれたとわかる手紙。
それを目の前で破いて捨ててしまった人がいる。
そしてその人は言うのです、
「大丈夫、まったく同じ紙にちゃんとコピーを取っておいたから」
たしかにまったく同じ見た目のものが、そこにある。
大きさも、手ざわりも、においも、書いてある内容もまったく同じものが・・・。
あなたはそれで納得するでしょうか?
きっと無理でしょう。
そして怒り、深く悲しむでしょう。
なぜなら・・・。
それはあなたが、破かれた手紙を形づくる物質や文章よりも、その手紙の存在そのものを大切に思っていたから。
その手紙の「魂」を見ていたからです。
Brain with Soul代表
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶ かつのり
アダルトチルドレンを「本気」で克服する方法 <目次>
1.アダルトチルドレンを「本気」で克服する方法
2.なぜ克服したはずの問題をくり返してしまうのか?
3.今までのアダルトチルドレン克服法が取りこぼしてきた盲点とは?
4.扁桃体が敏感だと自覚する
5.「あなたは強い」という事実
6.親を捨てる
7.アダルトチルドレン克服に欠かせない必要なこと
8.恩着せがましい親
9.一生懸命育てたのに!
10.あなたは本当に親不孝者なのか?
11.親にすべてをブチまけようと思う
12.親が子育ての非を認められない理由
13.親への仕返しが止められない
14.アダルトチルドレン克服の優先順位
15.親との対決に必要な覚悟
16.好きなこと、やりたいことがわからない
17.「誰もわかってくれない」を解決する方法
18.燃え尽き症候群をくり返してしまう
19.親との関係を良好にしたい
20.「してあげた」という親心
21.なぜアダルトチルドレンはリラックスできないのか?
22.「体」を整えることがアダルトチルドレンに必要な理由
23.「つき合う人」を変えなければアダルトチルドレンは克服できない
24.ナイーブさを捨てる
25.人に批判されるのが怖い
26.自尊心が低い
27.アダルトチルドレンの「克服」とは?
28.感情をうまく表現できない
29.鬼のような親
30.人からの評価が気になる
31.自信よりも必要なもの
32.嘘をついてしまう
33.アダルトチルドレンが承認欲求をなくす方法
34.仕事で手を抜けない
35.自己肯定感を高めたい
36.親と同じことをしてしまった
37.なぜ焦ってしまうのか?
38.不登校が許されなかった人
39.今の仕事が向いていないと思うなら
40.勇敢であるということ
41.人間関係がうまくいかない
42.孤独を磨き上げる
43.努力しても嫌われつづける人
44.いつも自分ばかり残業している
45.快楽と上手につき合おう
46.自分のなかに基準がない
47.面倒くさがりをなおしたい
48.自分に合った働き方を見つけたい
49.他人に興味がもてない
50.自分に興味がもてない
51.人の顔色をうかがう原因とその対処法
52.私は変われるでしょうか?
53.どこに行っても同じだぞ!
54.自分がわからない
55.やる前から「無理」「できない」とあきらめてしまう
56.職場の人間関係がつらい
57.自分で自分をしばりつけてしまう人
58.不自由を感じてしまう原因
59.口が悪くて孤立してしまう
60.親のせいにするのは自分の甘えなのか?
61.嫌味ったらしい言い方をしてしまう
62.明るく楽しく振るまえなくなった
63.家庭環境のせいにし過ぎと言われてしまう
64.すべてを受け入れてもらいたい
65.親への憎しみが消えない
66.自分の受け入れ方
67.一人暮らしを必死になって止める母親
68.ひどい親に育てられた
69.アダルトチルドレンが子供のしつけに迷うとき
70.ささいなことを根にもってしまう
71.なにをすればいいのかわからない…
72.無駄にプライドが高い自分がイヤになる
73.あなたのペースを乱す人への具体的な対処法
74.あなたが無理しすぎてしまう本当の理由
75.なぜあなたは努力しても報われないのか?
76.幸せを追いかけてるのに苦しいのはなぜ?
77.自分に優しくしたい、でもできない・・・
78.アダルトチルドレンがくり返し絶望におちいるパターンとは?
79.頼られているのか?利用されているのか?
おかげ様でコラム数500本突破!